断熱と蓄熱の調和のとれた関係に留意するー建材の選択ーバウビオロギー25の指針
暖房がついているのに、部屋が寒く、あるいは足先が冷たいといったことはありませんか。
日本全国、普通に建築されている在来木造住宅で起こりえることなので多くの方が体験されていることでしょう。断熱の重要性が一般に理解されてきたのは2000年以降、高断熱工法が確立されたのはさらに5年後の2005年頃ですから、底冷えのする家の体験は共通でしょう。
ー温熱生物学的な考察ー
断熱と蓄熱について考えるとき、温熱生理学的な考察が不可欠です。生物としての人間は一定の体温を保持する必要があり、それはおよそ37°Cです。ほんのわずかな上昇でも、熱があると感ずるものです。身体各部位の温度は22°C(鼻、耳)~40°C(肝臓)に及びます。皮膚の表面温度は30°C~35°Cで、平均は32°Cです。
体温を維持するため、新陳代謝にともなって身体内部での発熱が継続的に行われています。代謝は身体の運動に依存しており、重作業の場合には安静時の30倍に増加します。皮膚の結構、皮膚孔の調整、発汗、呼吸などの制御機構によって、発熱と放熱のバランスは恒常的に維持されています。通常の場合、人は平均100W/hの放熱をし、環境条件によっては外部から熱を需要します。
主に軽量で断熱性の高い建築建材でできている建物は、暖房のためのエネルギーをほとんど必要としません。室内は加熱するとすぐに暖かくなり、表面(周壁面)は、人体からほとんどエネルギーを引き出そうとはしないのです。同じ表面温度のタイルやジュータンの上を裸足で歩くと、そのことを感じることができます。ただし、暖房が止まったり、暖房がない場合、室内の空気温度は急激に下がることはデメリットです。反対はとても重く、断熱性の悪い建材で構成されている建物の場合です。
ー人体における熱の受容ー
人体における熱の受容は、前項で説明した運動量に加えて、室内空気温度、周壁表面温度、湿度、気流、接触面の熱伝導、衣服に依存します。熱移動の割合は、接触面の熱伝導が約5%、空気の対流によって約25%、周壁表面温度との熱放射によって約50%、発汗と呼吸による気化によって約25%(人は毎日約2Lの水分を発汗と呼吸で放出している)です。日本ではエアコン空調が一般的なので注目されませんが、実は周壁表面からの赤外放射によって移動する熱による割合が半分もあるのです。快適さを考えるうえで空気温度よりも周壁温度のほうが重要ということがよく分かります。
一般に、体感温度は空気温度と周壁表面温度の平均です。
(体感温度=(空気温度+周壁表面温度)×1/2)
周壁温度が15°Cの場合、人間が快適に感じるためには空気温度を25°Cとしなければいけません。逆に空気温度が15°Cの場合、周壁温度は25°Cとする必要があります。エネルギーコストの観点からは、室内空気温度を1°C上げようとすると暖房コストは5~6%上昇しますし、平均周壁温度を25°Cとすることは不可能です。空気温度と周壁表面温度の差は2°C~3°Cに保たれるべきです。
温熱感覚には個人差があり、快・不快を感z煮る温度にもバラツキが大きいです。衣服の状態による影響が大きいのですが、他にも運動量、年齢、健康状態、性別、季節、光と色も影響します。自然界における環境条件には大きな「むら(分布)」があります。(日向/日影、風、材質違い・・・)温度の変動は人体に作用して抵抗力をつけてくれます。省エネ化の推進や高断熱化により、住まい全体を一様の温度に保とうとする住宅もありますがこれは避けるべきです。
ー断熱と蓄熱のバランスー
断熱と蓄熱のバランスの取れた関係にするために、軽い建築材料(空気を含む断熱材)と重い建築材料(熱を蓄える性能)を賢明な方法で組み合わせることが大切です。例えば外断熱の施された蓄熱性の良い外壁、窓から受容する日射熱を蓄熱する建築材料です。日射の可視光の大部分は、ガラスを通って室内に達し、床壁家具の表面に蓄熱されます。そこから長波の熱放射が放射されますがガラス面では大部分が反射され室内にエネルギーが蓄えられることになります。これが「温室効果」と呼ばれる現象です。
屋内には600kg/m3以上の蓄熱性のある材をできるだけ多く使い、こうした材に直接日航があたるようにすることです。蓄熱面とガラス面の割合はおよそ「4:1」、ないしは、ガラス面1m2当たりで蓄熱材300~400kgとすると効果的です。
断熱と蓄熱、両方の特性のバランスの良さを提供できる建築材料の例:
⇒無垢材
⇒最新の多孔質レンガ
⇒気泡コンクリートブロック
床材の熱伝導率・密度・熱浸透速度の事例ー熱伝導率の数値が低いほど素足で歩いた時に冷たさを感じません。密度の高い素材ほど蓄熱性が高いです。
・ウールのジュータン 0.04W/mK
・コルク 0.07W/mK・300kg/m3・1.33cm/h
・柔らかい木材 0.13W/mK・400kg/m3・1.56cm/h
・かたい木材 0.18W/mK・600kg/m3・1.75cm/h
・タイル、 1.30W/mK・2000kg/m3・3.54cm/h
・自然石 2.80W/mK・2800kg/m3・4.85cm/h
ー熱貫流率U値の意味ー
30年前の低断熱住宅から高断熱化する、高断住宅から超高断熱化する、いったいどこまで高断熱化すればよいのか?という疑問が生じます。
低断熱住宅から高断熱住宅とすることで、熱損失量が大きく減少し、空気温度と周壁表面温度が近くなる、冷暖房費を削減できるという効果が期待できます。U値0.4W/m2Kまで断熱化されると空気温度と周壁表面温度の差はほぼ無くなり、これ以上高断熱化しても周壁表面温度は変わりません。
低エネルギーハウスやパッシブハウスのレベルにまで暖房エネルギー消費を減らすには、外壁と屋根のU値を0.2W/m2Kよりできるだけ小さいレベルとする必要があります。家全体で考えると暖房エネルギーに占める外壁と屋根の割合は40%程度に過ぎないことから効果が薄いことは明らかです。
「超高断熱」は構造面と資金面でかかる手間を考えれば割に合わないわずかな効果しかないことを理解しましょう。用意されている投資資金は他の箇所に投入するほうが、多くの場合より有意義です。
λ=0.04W/m2Kの断熱材の厚みによる簡略U値
・厚さ5センチ =0.8W/m2K
・厚さ10センチ=0.4W/m2K
・厚さ20センチ=0.2W/m2K
・厚さ40センチ=0.1W/m2K
厚さ5センチから厚さ10センチとすることで値は0.4上がる、厚さ10センチを厚さ20センチとしてもU値は0.2しか上がらない。つまり、手間を二重にかけても効果は半分しか出ないのです。無料で生産される太陽エネルギーを総合的に利用することを考えれば、断熱材厚さの重要性はさらに低下します。通常であれば0.2以下の非常に低いU値を達成するためにむやみにコストをかける必要はありません。判断に迷う場合は、正確な費用便益計算を実施(依頼)し、最も効果的に総エネルギー損失を減らす方法を明らかにするとよいでしょう。例えば、U値を0.4から0.2に改善するよりも、ソーラーパネルを設置する方が、総エネルギー損失には有効、ということのほうが多いです。
BIJバウビオローゲ 森健一郎
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