感覚知覚がもたらす印象を支援するー空間の造形ーバウビオロギー25の指針

見る、聞く、嗅ぐ、触れるなど、感覚知覚がもたらす印象を支援する

日本中で建築されている典型的な新築住宅は、白い壁、合成フローリング、樹脂窓、シンナー臭など、すべては退屈であり、不毛に感じます。仕上げ材料が豪華になったとしてもその印象はあまり変わりません。

伝統工法で建築された住宅は、土壁や漆喰などの繊細な仕上げ、良い香りのする無垢材の床、細かな細工の施された木製窓、太い柱や梁の迫力、心地よい匂い。すべては魅力的で高揚感があります。

経済的、技術的、ニーズの変化はあるものの、「見る」・「聞く」・「嗅ぐ」・「触れる」といった感覚を大切にした空間づくりをするべきです。

―テクスチャーの多様性―

現代では、子供の知性、器用さ、創造性が感覚を通じて養われることが証明されています。子供は感覚を通じて世界を体験し、遊びを通じて概念理解を獲得するのです。概念理解は、目・耳・口・鼻・手足を通じて形成され、それがその後、言語によって脳に刻まれ保存され、必要に応じて取り出すことができるようになります。

こうした五感を通じての概念理解形成で大切なのは、できるだけ多くの時間を屋外の自然環境の中で過ごすことです。周辺に原っぱや小川があり、自由に昆虫採集できるような環境であればいいのですが、都市部で暮らす子供にとって自然環境の中での遊びは限定されてしまっています。

屋外の自然環境で触れられるものと同様、住まいや仕事場の環境で使われるものもとても重要です。私たちの今日の居住環境、労働環境がお手入れしやすく衛生的であるとしても、私たちの緒感覚を呼び起こさないとすれば悲劇的なことです。子供時代に過ごす環境が、プラスチックのオモチャ、退屈な子ども部屋や学校の教室、鳥のさえずりではなく交通音などだとしたら、子供の知性、スキル、創造性の各時に与える影響は特に悲劇的なことです。美しい自然のように、居住環境、職場環境においても、私たちの触覚が刺激を受けるように、モノが彫刻的にかたちづくられ、関心を呼びおこす表面仕上げが施されるべきでしょう。

そのために何ができるのでしょうか?

※多孔質のフローリング材、天然繊維のジュータンなどの床材。単調にならないように。

※味わいのある塗り壁。彫刻的・立体的なフォルムと構成、木質材料、テキスタイルの素材(布張りなど)を。

※自然素材で作った家具。塗膜塗装をしない。有機的なフォルムを。

※ストーブのちらつく炎、観葉直物。

※自然を取り入れ、窓を開ける:自然光、鳥のさえずり、風のそよぐ音

―空間の広さー

文明化された人類は常に動物園のなかで生活してきたようなものです。動物は自然の中で生活している場合は比較的攻撃性を静めます。しかし、動物園に暮らしている場合は極度に破壊性を増すことがあります。ただし、穴やその他の身を潜められる場所を十分に与えれば、動物は狭い領域のなかでも比較的平穏に行動します。

人間の場合も同様で、このことは住宅や住宅地の建設を計画する際に考慮しなければいけません。破壊的な行動をひき起こす原因は、密集ストレス、行動制限、貧困、疎外感などです。これらの原因のなかで密集ストレスは特に破壊的行動を強めるもので、空間的なゆとりを獲得することで解決できる。

狭い住宅、息苦しい住宅地に暮らすことが避けられない場合には、視界が開けている「窓」が少なくともひとつはある、というプラス要素を考慮すべきです。子供にとって、視界が開けていることは精神の健全な成長にとって決定的なメリットをもたらすものです。窓の外に建物の壁ではなく雲・太陽・木々・花々が見えることは、子供の世界観がより広く、前向きで人生に対し肯定的な、そして自然と結びついたものにつながることでしょう。

空間は、安全、安心、やすらぎを求める気持ちを満たすものでなければいけません。空間が広くなれば、個人の成長を守るシェルターも拡大します。しかし空間が広すぎると、人間は空間に対するコントロールを失い、その結果、居心地が悪いと感じます。おこの状態が長く続くと、神経過敏なることがあるのです。

秩序と多様性の間の、弱い刺激と過剰な刺激の間の適度なバランスを見つけることが重要です。単調さによる退屈でも、カオスによる過剰な刺激でもありません。創造性を発揮しつつ、良き職人、芸術家、プランナーとの出会いがありますように。

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