蓄熱性能解説 2 蓄熱と室温・工事費の関係

一週間前のブログで予告した通り、今日は蓄熱性能の高い住宅の室温と工事費の関係について解説します。蓄熱性能解説シリーズの序章といってもいいでしょう。今回以降の解説では、なぜ蓄熱が重要か、また蓄熱性能を発揮させるための設計方法などについても解説していくつもりです。今日は蓄熱性能の高い住宅となった場合の結果についてのお話です。

「断熱性能」の解説で断熱性能と室温、空調費、工事費、健康性との関係などについて解説しました。快適な環境を作る上で表面温度のコントロールがとても重要です。一般の方にとっては室温のほうが馴染み深いので私も室温でご説明することが多いのですが実は表面温度のほうが重要なのです。「断熱性能」解説シリーズで解説したように断熱性能を高めれば上下温度差が小さくなり暖房室と非暖房室の温度差が小さくなるなど快適度が高まります。また断熱性能を高めることで周辺表面温度は限りなく室温に近づき快適度が高まります。ですがいくら断熱性能を高めても周辺表面温度が室温より高くなることはありません。表面温度のコントロールという意味において蓄熱が重要なのです。

さて前置きが長くなってしまいまいましたが表の説明をいたします。
この表は東京や神奈川など比較的温暖な地域(6地域)の断熱性能・蓄熱性能と室温・工事費の関係を試算したものです。2020年に義務化される6地域の断熱基準は平成11年告示(次世代省エネ基準)であるQ値2.7W/m2Kで一般的なハウスメーカーや設計事務所はこの基準で家づくりをしている会社が多いです。そして断熱性能Q値を2.1→1.5と数字が小さくなるほど断熱性能が高くなります。次に表の中央囲みの中の数値は前夜から明朝まで10時間の温度低下を示しています。例えばQ値2.1W/m2Kの時の-7℃とは前夜20℃だった室温が明朝には13℃になっているという意味です。そして右端の囲み内の数値は蓄熱性能の高い住宅の前夜から明朝まで10時間後の温度低下を示しています。先ほどのQ値2.1W/mwKの場合は前夜20℃だった室温が明朝に15℃まで低下しているということを示しています。たった2℃の違いではありますが、快適性・健康性・省エネ性などの点で大きな違いです。

次のもう一つ、この表には工事費に関する情報を記入しています。住人の快適性や健康性を考えていくと、Q値2.7W/m2K(次世代省エネ基準)はどう考えても不足しています。まだQ値2.7からQ値2.1に引き上げるための工事費はわずか30万円程度であることから私はQ値2.1W/m2Kを最低基準としています。()内の工事費は私が最低基準としたQ値2.1W/m2Kの一般的な蓄熱性能の住宅からいくら追加投資が必要かという金額を示しています。Q値2.1からQ値1.5に引き上げるためには50万円必要です。この表には記載していませんが、Q値2.1からQ値0.9まで引き上げるには130万円必要で、Q値1.5から断熱性能を上げるためには工事費という面ではハードルが高くなります。蓄熱性能を上げる方法はいろいろあり工事費は一概に言えないのですが、最も低コストで実現できる方法で試算したものが表の金額です。Q値2.1の一般的な蓄熱性能の家から蓄熱性能の高い住宅とするには100万円、Q値2.1の一般的な蓄熱性能の家を基準としてQ値1.5の蓄熱性能の高い住宅とするのに要する束投資費が150万円であるということを示しています。

以上のように蓄熱性能は快適性・健康性・省エネ性などを考えるうえで重要な性能ですが、下手な設計をしてしまうと逆に空調費が増してしまったり、夏場オーバーヒートして室温が下がらず不快になってしまうなどの問題が生じます。蓄熱性能を効果的に発揮させるためには、断熱性能と開口部からの日射取得量、蓄熱容量と蓄熱材の厚みの設定などのバランスがとても重要です。次回以降の「蓄熱性能」解説でご説明していきます。

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