
エネルギ消費を最小限にし、再生可能なエネルギーを利用する
ー持続可能な環境の形成
ーバウビオロギー25の指針
この指針は、ありがたいことに、現在、メインストリームになっています。しかい、しばしば欠けていることは、ほかのバウビオロギーの判断基準を同時に考慮することです。私たちの意見では、エコ収支の悪い材料で、すべての部屋の室温差を無くそうとするパッシブハウスは、本当に良い家ではありません。そのため、たとえば、私たちのスローガンの一つは次のとおりです。
「パッシブハウスは良し、でも、バウビオロギー的であれ」
―建築の収支―
建築計画では主に4つの収支がございます。
「コスト収支」、「エネルギー収支」、「リスク収支」、「エコ収支」の4つです。そして4つの収支を組み合わせて評価することは建築行為において大切な計画の一部です。どのような建材も、工法も、設備機器も100点満点はありえません。「収支」とはメリットとデメリットを把握してバランスをとることです。
「コスト収支」は建設コストだけではなく、利用段階のコスト(清掃、修理、光熱費)と解体時のコストも含まれます。
「エネルギー収支」は、建材の製造エネルギー、利用段階の一次エネルギー消費(家電、照明、給水、冷暖房、調理)による需要が考慮されます。
「リスク収支」は、建設時の作業者への健康被害、利用段階の居住者の健康被害を改善しなくてはいけません。
「エコ収支」は、建物の製造から廃棄までのライフサイクルを通しての環境影響を把握しなければいけません。日本ではLCCM住宅(ライフサイクルカーボンマイナス住宅)がこの理念に近いですが、バウビオロギーでは、温室効果ガスのみならず、酸性化、オゾン層、光科学スモッグ、土壌汚染など全般の問題です。住宅のライフサイクルを通した建設・利用・処分段階の二酸化炭素発生量割合は、2:7:1程度です。利用時(居住時)の発生量を削減することが最も効果的です。
―断熱材の製造エネルギー―
建材の選定では、成分表や製造エネルギーなどの情報を入手して比較検討する必要があります。例えば皆さん注目度の高い断熱材の製造エネルギーについてバウビオロギーで示されている情報を紹介します。
断熱材は単位厚さ当たりの熱貫流率がそれぞれ違うので、「U値0.3W/m2K」を達成するための厚さに換算した製造エネルギー(MJ/m2)数値です。
・セルロースファイバー 38
・グラスウール 102
・ビーズ法ポリスチレンフォーム 247
・硬質ウレタンフォーム 445
・押出法ポリスチレンフォーム 516
―日本における住宅性能および環境評価の認証制度―
- 長期優良住宅
住宅性能評価制度に基づいた認証指標です。耐震性、劣化対策、省エネ性、維持管理・保全について基準に適合した住宅を認証する制度。一口でいうと「長持ちするいい家」を国が認証する制度です。
- 低炭素住宅
省エネルギー性に特化した認証制度で、省エネ法の省エネ基準住宅に対して、一次エネルギー消費量を10%以上削減できる住宅を認証する制度です。評価対象の住宅は市街化区域に建設される住宅だけ。市街化調整区域に建設するときには下のBELSでの評価を検討しなくてはいけません。
- BELS
ベルスはBuilding-Housing Energy-efficiency Labeling Systemの略称で、建築物の省エネ性能について評価認証する制度です。基準一次エネルギー消費量に対する設計一次エネルギー消費量の削減割合に応じて★1つから5つによる評価書が発行されます。最高評価の★5つは一次エネルギー消費量80%以上の評価です。
- CASBEE
キャスビーは、省エネや環境負荷の少ない資機材の使用といった環境側面はもとより、室内の快適性や景観への配慮なども含めた建築物の寝室を総合的に評価するシステムです。建物だけではなく建物が周辺環境にあたえる影響なども評価対象です。
これら認証制度には、住宅ローン控除期間の延長、登記時の登録免許税の減免、などの優遇措置が用意されているので建設時に確認しましょう。
―省エネ建築―
人間の健康と快適性、それと共に省エネ建築は、包括的な意味において調和のとれたあり方で統合されなければいけません。全ての関係者にとって大切なことは、省エネ化をめぐって知恵を絞る際に、「はるかに度をこさないこと」です。複雑怪奇で、お金のかかるハイテクな解決は、むしろ負担となる可能性があります。利用者が理解できる解決法であれば、より居住段階でより省エネ化が進みます。
・よき建設敷地の選定
・熱損失の低減
・地域の気候風土にふさわしい建築工法
・正しい住宅設備
・冬、太陽放射からの熱取得
・夏、太陽放射の遮断と通風活用
・再生可能エネルギー利用
・使用方法の啓蒙
そもそも「省エネ建築(住宅)」の定義ははっきりしていません。
ドイツ発祥のパッシブハウス基準は、年間冷房需要15kWh/m2、年間暖房需要15kWh/m2、年間一次エネルギー消費量120kWh/m2(100m2住宅に換算すると43.2GJ)です。
日本のZEH(ゼロエネルギー住宅)基準は、再生可能エネルギー等を導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとなる住宅です。ただし評価対象は、冷暖房、換気、給湯、照明のみで、住宅の一次エネルギー消費の最も大きな割合となってきた「家電」は除外されています。つまり真の意味でのゼロエネではありません。
―断熱の効果からU値(熱貫流率)の効果の下限値を考える―
熱の伝わりやすさを示す物性の指標、熱伝達率λ(ラムダ)単位W/(m2・(K/m))がございます。材料の厚さ1m、内外温度差1℃、1m2あたりの熱の伝わりやすさを示す数値です。厚さが1m当たりなので、同じ条件で性能を比較できる指標です。
U値(熱貫流率)は、厚さを考慮した熱の伝わりやすさで、U=λ/d(厚さ)の関係です。例えば、λ=0.04W/m2Kの断熱材、厚みが10cm(0.1m)ならば、U=0.04/0.1=0.4W/m2Kとなります。ここで断熱材の厚さを5cmから40cmに厚くしていったときのU値を計算してみましょう。
・ 5cm=0.8-①
・10cm=0.4-②
・20cm=0.2-③
・40cm=0.1-④
- →②:断熱材5cm厚くして0.4の向上
- →③:断熱材10cm厚くして0.2の向上
- →④:断熱材20cm厚くして0.1の向上
つまり、手間を二重にかけても、効果は半分しか出ないのです。
次に暖房負荷について検証してみます。
U値を0.1W/m2K改善した場合、暖房を使う季節で、屋外と屋内の平均的な温度差が15℃である場合、m2当たりで節約できる暖房エネルギーは以下のようになります。
0.1W/m2K×15℃×壁面積250m2×24時間×120日=1080kWh
上記式はつまり、延床面積100m2住宅で4か月間エアコンを稼働し続けて全館暖房したときの暖房消費になることを意味します。
これはおおよそ、石油約108リットルに相当します。暖房の季節であっても窓ガラスなどから太陽日射熱が獲得できるため、エネルギー消費は実質的にはかなり少なくなります。日射取得でどの程度エネルギー消費を削減できるか計算してみます。
日射取得窓面積10m2×200W×4時間×80日=640kWh
上の概略式はつまり、日射取得窓10m2、窓1m2あたり200Wの日射取得、一日の日照時間4時間、ひと冬80日晴天だったときの日射取得量を意味します。
高断熱化された住宅では冬季の取得熱として大きな意味を持つ内部発熱もございます。内部発熱は平均400Wほどなので、ひと冬では「400W×24時間×120日=1150kWh」の内部発熱量があることになります。
以上の結果から、U値0.5~0.2へと高断熱化したときの年間暖房費を計算してみます。
・U値 0.5:(1080×5-640-1150)×電力量単価26円×0.25(COP4.0)=23500円
・U値 0.4:(1080×4-640-1150)×電力量単価26円×0.25(COP4.0)=16500円
・U値 0.3:(1080×3-640-1150)×電力量単価26円×0.25(COP4.0)=9500円
・U値 0.2:(1080×2-640-1150)×電力量単価26円×0.25(COP4.0)=2400円
上に計算した年間暖房費は、比較的温暖な6地域の日本の住宅で、ひと冬4か月間エアコンを稼働させつづけて全館暖房した場合の暖房費で、換気と漏気によるエネルギーロスは見込んでいない金額です。部分間欠暖房の住宅であれば上記の約1/2の電気代となることが多いです。
またこのような試算では設定条件が重要です。内外温度差の平均が15℃以上あるときにはU値0.1W/m2k当たりの暖房エネルギーの再計算が必要です。日射取得窓が小さい、あるいは都市部で取得熱を期待できないときは日射取得として想定した分のエネルギー消費が増えますし、居住人数が2人であれば内部発熱が減少しその分のエネルギー消費が増えます。電力量単価は上昇傾向にあるので実情に合わせた計算が必要です。
これらの数値から、U値の効率の下限値を導き出すことができます。この値は、今後長期的に予想されるエネルギーコストと、建材価格、建設費の動向によっても左右されていきます。しかしながら、通常であればU値0.4からU値0.2へ上げるよりもソーラパネルを設置するほうが総エネルギー量を減らすには有効です。なぜなら、U値0.4からU値0.2へ性能向上させるための追加投資は約100万円かかるのですから。
―バウビオロギー・アジェンダ―
私たちの「バウビオロギー・アジェンダ2025」には、2025年までに達成したいこの指針に沿った「18」の目標があります。その中の数点を紹介します。
※最も重要な地域のエネルギー源は間接、直接に太陽に由来しますが、相違はその再生時間だけです。石油や天然ガスや石炭に対して、再生エネルギー、(太陽、風、水、バイオマス)だけが私たち人間の表象可能な時間で更新してくれるのです。
※暖房を少なく:冬季には、暖かい服を着てください。すべての部屋が同じように暖かい必要はありません。
※電力や水の消費を少なく:電力消費や節水する機器もしくはスタンドバイ(待機電力)ではなく、電源をオフにするもの。照明をオフにする(消灯する)。グリーン電力プロバイダーを選択する。
※エコ収支の良く、健康に負荷をかけない製品(家具、マットレス、カーペット、塗料など)を使用、購入する。理想的にはそれらは地場のもの、中古製品(骨董品、フリーマーケットまたは友人/親戚からのアイテム)です。たいてい新品よりもエコです。
※居住スペースの消費を減らす:より小さな居住、共同生活の形態を。
全てのヒントは、住宅(自宅)だけではなく、職場や学校にも当てはまります。
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